2012年6月28日木曜日

儲けたい人のためのETF講座(その11)


レバレッジETFのしくみと危険性について


レバレッジETFの本質はデリバティブ(先物取引)であり、結局は株価が上がるのか下がるのかを当てっこしているだけで、投機性のつよい商品と言えます。

一般に、先物市場の役割として、多種多様な投資家が参加することで市場の価格形成機能が格段に効率化し、さまざまなリスクヘッジにも利用されており、今では金融の世界になくてはならない市場となっていますが、レバレッジが効くため投機マネーの主戦場と化してしまう危うさもあります。

先物取引は、本来プロ同士(スペキュレーター)のリスクテイクの場(その分大きな利益が期待できる場)であったものが、ミニ化やETFなどの金融技術の高度化により個人投資家にもお手軽に利用できるようになっています。

しかし先物取引をしている個人投資家の自覚がどうかは知りませんが、FXと同様に崖っぷちのお遊びには違いありません。

さてレバレッジETFのしくみを解説する前に先物取引とは何か? から始めたいと思います。

先物ってどんなもの?

個別の株式のように「株券」のような具体的な物はありません。
(昔は紙切れの株券がありましたが、今では電子化されているので「物」としての株券を見ることはできません。未公開株式では現物の株券があります。)

先物取引では、一般に日経225やTOPIXなどの「指数」を、将来の予め定められた期日に取引する契約です。(買い建ては現在の「指数」となり、将来の定められた期日(まで)に反対売買を行い差金決済しますが、反対売買をしないと満期には強制的に決済(SQ値で精算)されてしまいます。)

参考
買い建て、売り建てしたもので未決済のものを建玉(たてぎょく)といい、カウントは枚数で行います。

宝くじなら300円で抽選番号が書いてある紙切れをくれますが、先物取引では300円の手数料で1,000万円を超える契約ができますがなにももらえません。

なにしろ買ったものが「指数」ですから、家に持って帰ることも、金庫にしまうこともできません。
その指数は時々刻々と上がったり下がったりします。

買い建てた「指数」を基準として、指数の上下により、儲かっている瞬間もありますし、損している瞬間もあります。

したがって儲けがでている内に建玉を売り(反対売買:転売、買い戻し)、買った値段と売った値段の差額を受け取ることで利益が確定します。(差金決済)

先物取引では現物の受け渡しがありませんから、売りも買いも同じようにできます。
必要な証拠金さえ差し出せば、なにも持っていなくても日経225指数先物を何枚でも売れます。

ですから先物取引とは、簡単に言ってしまうと、未来の指数が上がるか下がるかを当てっこするゲームなのです。(債券先物では、現物の受け渡しが行われる場合があります。)

値が上がると思ったら「買い建て」し、下がると思ったら「売り建て」するのです。

株式市場では、景気が良くなるとほとんどの銘柄が値上がりするため、投資家全員がハッピーになれますが、先物市場では予測が当たった半数の人が大儲けし、外した人がすってんてんとなり、全員がハッピーになることは絶対にありません。


では具体的に、日経平均株価(日経225)を対象とした株価指数先物取引がどうなっているのか見てみましょう。

取引単位(1枚)  日経平均株価(日経225)を1,000倍した金額が取引単位

例 日経平均株価 16,250円×1,000=16,250,000円

先物で日経225を1枚買う(建玉)と1,625万円の取引をしていることになります。

日経225 が10円上がると、10円×1,000=10,000円 儲かります。
300円下がると、300円×1,000=300,000円 損をします。

個人投資家がこの先物取引を行う場合には、証拠金として約50万円程度の差し入れ(証券会社により金額が異なります。)が必要です。(この場合レバレッジは32.5倍)

売買の手数料は、1,625万円の取引にもかかわらず格安で、1枚当たり0円から300円程度です。(証拠金さえ差し出せば期限内に何回でも買い建て、売り建てが格安でできるのです。)


ちなみにTOPIX先物の場合では、

取引単位1枚は、東証株価指数(TOPIX)を10,000倍した金額です。

東証株価指数(TOPIX) 1,432.1×10,000=14,321,000円

1ポイント上がると、1ポイント×10,000=10,000円 儲かります。
30ポイント下がると、30ポイント×10,000=300,000円 損をします。


以上を参考に、レバレッジETFのしくみについて解説します。

野村アセットマネジメント(野村AM)の「日経レバレッジ指数ETF」は、2012年4月に設定額100億円(純資産)で上場されていますから、このときには建玉として日経225を約1,500枚(約200億円)ぐらい買い建てていたと考えられます。(レバレッジは約2倍)

参考
現実の投資家のお金は、そのほとんどが現金・預金・短期公社債等の短期有価証券に充当(証拠金の差し入れ用)されており、約1,500枚の建玉の手数料として支払われる金額はごく僅かしかありません。

そしてこの先物1,500枚を小口の受益証券(ETF)に分け、東証に上場しETFとして販売したものと思われます。(先物だけのETFだと価格がマイナスになる場合がありますから、純資産+先物を一体とした受益証券だと思われます。)

しかしこのレバレッジETFの運用では手間暇がかかり、毎日純資産額に応じてリバランスをしなければいけないのです。

日経225は時々刻々変化しますから、レバレッジを約2倍に維持しようとすると、常に建玉を2倍にするよう買い建てたり、売り建てたりし続けなければならないのです。

市場の開いている日中にそんなことはやってられないので、市場の引け時(ほぼ終値)に建玉の調整(リバランス取引)がされています。

具体的には、

前日終値の段階で純資産100億円、先物(建玉)が200億円とします。

当日終値が前日終値より10%値上がりしたとすると、先物200億円は220億円となり20億円の儲け(見かけ上)が純資産に上乗せされ、120億円が翌日の純資産となります。

そうするとレバレッジを約2倍とするためには、純資産120億円×2倍=240億円の建玉が必要となり、20億円分の建玉が不足します。

どうするの?

しかたがないので、翌日までに世界中の開いている市場で先物を20億円買い建てることになります。

そうして翌日、日本の市場が開くまでには建玉240億円をそろえるのです。大変だね!

まだまだ・・・

値が下がったらどうなるの?

同じ前提で純資産が100億円の場合。

当日10%値が下がったら、先物は200億円から180億円になってしまいます。

すると純資産は20億円も下がり、80億円になってしまいます。やばいね~

純資産額が80億円になったので、建玉は80億円×2倍=160億円となりますから、建玉20億円が余分となるので売り建てます。この反対売買により2.2億円の損失が確定します。(マイナス方向にずれが発生する。)

そうして翌日には、純資産80億円、建玉160億円で再出発! 今日は上がるといいね!


日経レバレッジ指数ETFは売れに売れて、今では純資産9,000億円。
先物市場ではクジラになってしまいました。

1月29日の日銀の追加緩和により、日経225は一時17,000円から600円(3.5%)近く高騰しましたが、この日は先物を約1,200億円(建玉6800枚)を買い建てなければならないことになります。ですからレバレッジETFの純資産額としてはほぼ限界なのでは。
(同業他社としては、2匹目のドジョウを狙うことがほぼ困難だと思われます。)

金融関係者の間では、ブラックマンデーのように市場が暴落した場合、先物市場は流動性が枯渇し、クジラの反対売買はムリかもと心配されています。

参考
日経レバレッジ指数ETFの投資信託説明書より
「市場の大幅な変動や流動性の低下等により、対象先物取引が成立せず、または、必要な取引数量のうち全部または一部が成立しない場合」には運用が困難となります。
 野村AMからアナウンスされた「資産規模が膨らみ過ぎた結果、指数との連動性を維持するのが困難」となったのは、東証の引け後に先物を買い建て、売り立てする際に予定の枚数が確保できなくなったためのようです。

参考
リーマンショックのとき、日経225は30%下落しましたから、今年もしも中国ショックなどで同様なことが起こった場合、運用者が何もできないとするとレバレッジETFの純資産は約60%が吹っ飛ぶことになります。(当然ETF購入者も市場で売るに売れない状況となります。)


以上よりレバレッジETFは、1日単位では日経225の動きの2倍になるようコントロールされていますが、買い建て、売り建てをその日その日に行っているので、1ヶ月間で日経225が20%値が上がったからと言って、1ヶ月前にこのETFを買った人が40%儲かるかというと、そんなことはありません。たぶんリターンはもっと低くなります。

参考
運用報告書(2015/12/30)より
1年間のリターン INDX  13.9%    ETF 15.2% (約1.1倍)
3年間のリターン INDX  187%     ETF 196% (約1.05倍)
長期のリターンがぼちぼちの割りにはリスクが2倍ですから、シャープレシオはかなり悪そう。

参考
日経レバレッジ指数ETFの投資信託説明書より
「一般に、日経平均株価の値動きが上昇・下降を繰り返した場合に、マイナスの方向に差 (ずれ)が生じる可能性が高くなります。また、一般に、期間が長くなれば長くなるほど、その差(ずれ)が大きくなる傾向があります。」
「したがって、NEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(日経レバレッジ指数ETF)は、一般的に長期間の投資には向かず、比較的短期間の市況の値動きを捉えるための投資に向いている金融商品です。」


つまりレバレッジETFは、短期で指数の当てっこをしたい人にはそこそこのリスクで楽しめますが、資産を増やしたい人にはまったくおすすめ出来ないETFであるというのが私の結論ですし、ETFの徒花(あだばな)というのが率直な感想です。


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日経レバレッジ指数ETF(レバレッジETF)の分析