2012年9月4日火曜日

中国は資本主義経済に変われるのだろうか?(その2)


中国が資本主義経済にはなれない理由その2

中国の経済政策はケインズしかない。

経済学には「古典派」と「ケインズ経済学」の2つの系統があります。

「古典派」とはアダム・スミスを始祖とする思想で、「レッセ・フェール(自由放任)」こそが最大多数の最大幸福が達成されるという考え方です。

この考え方によると、よい政府とは市場に対して自由放任、つまり規制緩和により経済を活性化させようとする「小さな政府」のことです。

自由放任としておけば市場では財の最適配分が行われ、生産物はすべて需要され、労働者についても失業することはないというのです。

しかし1920年代の世界恐慌により失業者が街に溢れるようになると「古典派」は衰退し、大きな政府による大規模開発などの「有効需要(景気刺激策)」の創出による経済発展、いわゆるケインズ革命が世界を席巻しました。

「古典派」はこの時期に死に絶えたようになりましたが、大きな政府による「ゆりかごから墓場まで。」の政策により国民の労働意欲は減退し、社会主義国の計画経済の破綻もあり、やはり自由放任(規制緩和)こそが経済活性化の原点ということで「古典派」は蘇りました。

産業革命発祥の国イギリスも大きな政府による企業の国有化、労働組合の保護、社会福祉の充実などにより国力が衰退していましたが、「鉄の女」サッチャーの豪腕により大胆な規制緩和が行われ、老大国イギリスはみごとに復活しました。

現在までのところ「古典派」と「ケインズ経済学」のいずれが「真理」なのか決着がついていません。


さて中国についてです。

中国では「古典派」の経済政策である「レッセ・フェール(自由放任)」は選択支にありません。

共産党としても法家の国としても市場を自由放任にすることはあり得ません。

したがって経済政策として行えるのはケインズの「有効需要」政策(景気刺激策)のみです。

ケインズ政策は1960年代のアメリカ、1970年代の日本で目覚ましい活躍をしましたが、いずれも後半では「インフレ」によって破綻しました。

中国も同じ運命をたどる可能性があります。

一方ケインズ経済学が有効かどうかは消費関数により大きく変化します。
消費関数は、国民が増加した所得の80%を消費した場合0.8となります。

消費関数が0.8ならば乗数効果は5倍(投資額の5倍の波及効果)となりますが、0.8以下の低い値、例えば0.5となった場合、乗数効果は2倍にしかなりません。

消費関数について中国では0.8よりもかなり低いのではないでしょうか。

その理由は、中国の公的な投資資金の何割かは役人などの取り分となっているからです。

参考
中国共産党員は8000万人いますが、中国国民から、共産党下級者から幹部へワイロが送られており、その額は80兆円にもなると言われています。(温家宝首相がニューヨーク・タイムズにすっぱ抜かれた隠し財産は2700億円でした。)
このため中国では0.4%の人たち(共産党幹部)が国家の富の70%をもっているとも言われています。(貧富の格差が大きい米国でさえ1%の富裕層が23%の富しか持っていませんから、中国の格差社会のすさまじさが分かると思います。)


政府でも軍でも同様なのですが、割り当てられた予算は公私の区別が分からない役(軍)人の個人口座にかなりの割合で振り込まれています。(直接ではなく複数の経路を通じて行われています。)

共産党や軍幹部の不正蓄財はこれまで国内不動産などに投資されており、消費関数を高めていましたが、底流では国家による摘発を恐れ日米欧の先進国の不動産投資へ流れが変わりつつあります。

参考
中国共産党幹部の多くは、子女や家族は米国などの欧米に暮らしており、また不動産を所有しています。統計によると、中国国内からそうした家族への送金や不動産購入のために毎年10兆円もの金額がキャピタルフライトしているそうです。


習近平新体制では不正蓄財の摘発が強化されるため、一層この傾向が強まり、資本の国外流出とともにますます乗数効果を下げるものと思われます。

いずれにしろ共産国家のケインズ政策はザルのごとく効果は低く、一度下り坂となれば最早打つ手はなくなります。

参考
ハーベイロードの仮説では、ケインズ理論に基づき景気刺激策が行われる場合、効果が期待できる前提として役人は「公正」かつ「有能」とされています。中国の役人は「有能」かも知れませんが「公正」とはとても言える状況にないことは明らかであり、この点からも中国におけるケインズ理論に基づく景気対策では十分な効果が得られないことが分かります。

自由市場については、改革開放政策により経済特区が認められ局部的には実現したかのように見えますが、ミクロ的には「需要」と「供給」で価格が決まるものの、目的合理的な企業運営については役人そして共産党幹部の「意思」が強く働いており、自由な企業人としての行動には極めて多くの制約があります。

特に資本主義の根幹である「資本」については、外国資本への強い規制と国有銀行を通じた非合理的な投融資が行われており、自由放任とはほど遠い状況にあります。

資本主義経済で最も重要なことは合理性の追求であり、コスト積み上げによる合理的価格決定、合理的生産計画、輸送計画、販売計画など、サプライチェーン全体を通して合理性の追求が行われなければなりませんが、この過程の中に見積り不能な「恣意的配慮」が加わると自由な市場経済が逼塞してしまいます。

習近平新体制も改革開放路線を踏襲するとしていますが、共産党権力の解放と資本の自由化に踏み込まない限り中国に未来はないのではないでしょうか。

私は、中国は資本主義経済に変われないと考えます。


参考記事

中国の専制政治は経済学の限界を超えているのか

2013年6月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙

2013.6.24中国「影の銀行」炸裂の予兆  msn産経ニュース


中国が資本主義経済にはなれない理由その1



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